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EDUCATION & COLLABORATION

波佐見高校 × サイネンショー

便利さ、新しさ、かわいさをまとって生まれてきた焼き物が使われなくなってタンスの奥に眠っています。1万年以上昔の縄文式土器は残っているのに、僕らの茶碗は粉々に砕かれ道路の白線になってやがて消えて行く。モノの価値という不確かな尺度が一変する瞬間、それを未来の担い手である高校生に体験してもらうことで、今の作り手が感じている矛盾と、そこに潜む可能性を次世代に伝えることはできないだろうか。

サイネンショーは、現代陶芸家:松井利夫の呼びかけにより始まったプロジェクトです。もういちど焼けば突き抜けれるんじゃないか、便利さ、かわいさの向こうに未来はあるんだろうか。持ち寄った不要陶器を1350℃の窯のなかで文字通り「再燃焼」することで、見捨てられた器を溶かし、新しい始まりの器に変えます。

「土にふくまれていた空気が膨張してコブ(ブク)を発生させた皿やぐい呑み、金や赤が焼けとんでしまい無彩色になった上絵、積み重ねた器が融けて合体したもの、釉薬を縮れさせたもの(梅花皮=かいらぎ)、再焼成でできたヒビを漆でついだもの。それらは、元の価値や用途を失っているし、焼き物としての居場所がまだ有るのか無いのかさえ不明の物体たちである。また、共同作業の産物のため、特定の誰かの作品というわけでもない。ただ、窯の中で得た変形は、<歪み>や<朽ち>といった美意識の延長にある一方、<窯変>を否定した近現代陶芸へのささやかな一撃と感じられなくもない。・・・変形した焼き物、その過程を想像すると、さまざまな課題が見えてきます。膨大な量のゴミ、電気エネルギーに支配されている暮らし、限界集落に象徴される都市と地方の格差。サイネンショーの発端のひとつは、大震災以降の東北の職工芸の行く末を考えることでもあった。・・・展示品の値段は、元の価値と無関係。サイネンショーの側で値段をつけるが、他と比較する要素が何も無いサイネンショーの品には、購入者が自分なりの価値を探さなければならない。」
(松尾 惠 MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w|”展覧会「サイネンショー」” AMeeT 2013年11月3日記事より引用)

サイネンショー in 波佐見町では学ぶ高校生たちが、それぞれいらなくなった陶磁器を持ち寄り、畑ノ原の登り窯で焼き直しました。陶磁器の選定から、窯入れ・窯焼き・窯出しも学生が行い、出来上がった作品を東京・京都展で実際に販売。松井利夫が一人の「目利き」として参加することで本当の美しさとは、モノの価値とは何かを示し、またそれを実社会に還すことで価値の循環する仕組みを高校生に伝えました。

窯変(ようへん)
焼成中に火炎の性質や釉(ゆう)の具合などにより,焼成した陶磁器が予期しない釉色や釉相を呈したり,器形が変形したりすること。また,その器。(三省堂 大辞林)

松井利夫プロフィール:
現代陶芸家 / 松井利夫 
大阪府生まれ。'80年京都市立芸術大学陶磁器専攻科修了後、イタリア政府給費留学生として国立ファエンツァ陶芸高等教育研究所に留学。エトルリアのブッケロの研究を行う。帰国後、沖縄のパナリ焼、西アフリカの土器、縄文期の陶胎漆器の研究や再現を通して芸術の始源の研究を行う。近年はArt&Archaeology Forumを立ち上げ芸術と考古学の領域融合の研究を重ねる。京都造形芸術大学教授、国際陶芸アカデミー会員。
第40回ファエンツァ国際陶芸コンクールグランプリ(イタリア)、第14回カルージュ国際陶芸ビエンナーレARIANA大賞(スイス)、第29回京都美術文化賞など受賞多数。